ギリシャの前財務大臣でアテネ大学の経済学教授であるヤニス・バルファキス（Yanis Varoufakis）は、アメリカの大統領が貿易赤字を解消することに成功すれば、マイアミとマンハッタンの不動産価格は暴落し、政府の債務返済コストは急上昇し、ダウ平均株価も大幅に下落するだろうと分析した。

トランプはその最初の任期から、アメリカの貿易赤字を解消することに固執してきた。しかし、バルファキスは、アメリカの貿易赤字は根深く、ブレトンウッズ体制の崩壊以来、この赤字はアメリカの経済構造に深く埋め込まれており、新しい政府の能力を超えているだけでなく、その核心目標にも反していると指摘している。

バルファキスの見解によれば、トランプは貿易赤字に対抗するための2つの「重い武器」を持っている：一つは伝統的な輸入関税、もう一つは1962年の貿易拡大法第232条で、アメリカ政府が国の安全を理由に保護主義を実施する国や経済に対して報復措置を講じることを許可している。例えば、EUはすべての輸入自動車に一律10％の特別関税を課し、他の行政的制限措置を講じながら、米EU自動車貿易において巨大な黒字を維持している。

しかし、バルファキスは、関税でも第232条の措置でも、アメリカの貿易赤字を信頼性のある方法で減少させることはできないと考えている。なぜか？もしトランプが本当に就任初日からカナダ、中国、メキシコに関税を課し、他の輸入制限の罰則的措置を実施したと仮定してみよう。疑いもなく、これらの措置は輸入を減少させるが、アメリカの輸出も大幅に減少するだろう。

関税がアメリカの輸出に与える悪影響は、ドルの国際的な役割を反映している。たとえ他の国の人々がアメリカの企業の商品を購入したくなくても、彼らはドルを保有したいと望んでいる。もしトランプが関税を引き上げて、中欧からの輸入を抑制し、政府の収入を増加させる（その結果、国内の税収を減らす）水準に達すれば、通貨市場は必然的にドルの価値を押し上げる。さらに国内減税を実施すれば、ドルはさらに大幅に上昇する可能性がある。したがって、たとえトランプの関税政策が輸入を減少させることができたとしても、ドルの強化はこの傾向を相殺し、逆に輸入を増加させ、アメリカの輸出能力を弱めることになる。最終的に、アメリカの貿易赤字は基本的に変わらないだろう。

次に、トランプ新政府の目標がある。バルファキスは、トランプの措置がアメリカの貿易赤字を解消または大幅に減少させるというあまりにも可能性の低いシナリオを仮定している。そうすれば、彼は個人的および政治的に「ワーテルロー」を迎えることになる。労働者階級の有権者が彼にこの勝利をもたらしたが、トランプが本当に「忠誠を誓っている」人々は金融家や不動産開発業者である。彼らを満足させることがトランプの使命である。しかし、問題はここにある：アメリカの貿易赤字を解消することは、これらの人々の富を破壊することになる。

歴史を振り返ることで、私たちはこの点をより明確に理解できる。バルファキスは、第二次世界大戦後、アメリカがヨーロッパと日本を「ドル化」することによって（その結果、同盟国にアメリカの輸出製品を購入させた）、貿易黒字を維持していたことを指摘している。このプロセスは、援助（マーシャルプランのような）、貸付、そしてブレトンウッズ体制の下でのドル、ヨーロッパ通貨、円、金の間の固定為替レートによって実現された。

アメリカが貿易黒字を維持する限り、このシステムはスムーズに機能する。ヨーロッパと日本がアメリカの企業から自動車、家電、コンピュータを購入するにつれて、アメリカが輸出するドルは徐々に回帰し、アメリカの黒字循環が持続する。しかし、1971年にはアメリカの貿易バランスは赤字に転じる。純輸入国として、アメリカ経済はヨーロッパと日本にますます多くのドルを輸出した。同時に、ベトナム戦争におけるペンタゴンの巨額支出も、多くのドルが東南アジア、日本、さらにはヨーロッパに流れ込む原因となった。言い換えれば、多くのドルが外国の中央銀行の金庫に蓄積された。

ブレトンウッズ体制の核心は、アメリカが1オンス35ドルの価格でアメリカの金を交換することを約束した。しかし、ドルが非アメリカ人の手に流入し続けるにつれて、人々はアメリカがこの約束を果たすことへの信頼を失い始めた。最終的に、1971年8月15日、ニクソン大統領は金本位制の終了を発表し、戦後の固定為替制度は完全に崩壊し、ドルは大幅に価値を失い、ドイツと日本の通貨は大幅に上昇した。

すぐに、ヨーロッパと日本の中央銀行はジレンマに陥った。彼らは蓄積したドルをアメリカの金と交換することを望まず、またこれらのドルをドイツマルクや円に交換することを望まなかった。為替レートがさらに上昇し、輸出により大きな影響を与える可能性があるからである。そこで、これらの中央銀行はドルを金の準備の代替品として扱い、金融仲介機関を介してウォール街に送信し、アメリカの債務、不動産、そしてアメリカ政府が外国人による購入を許可している株式を購入する。

バルファキスは言った、これが現在のアメリカのグローバル覇権の本質的な「素晴らしい逆説」である：アメリカの貿易赤字はヨーロッパとアジアの資本家に対してその純輸出の需要を提供し、同時にアメリカに流入する資本を支え、アメリカ政府を資金提供し、アメリカの金融業者や開発業者、つまりトランプの「友人たち」を活気づける。

したがって、もしトランプが本当にアメリカの貿易赤字を解消した場合、マイアミとニューヨークの5番街の不動産価格は暴落し、政府の債務返済コストは急激に上昇し、ダウ平均株価も大幅に下落するだろう。バルファキスは言った、もしかしたら、トランプは一言思い出させる必要があるかもしれない：最も無情な神々は、しばしば彼の最も深い願望を実現した神々である。

この記事は転載です：金十データ